感染性胃腸炎
別名: お腹のかぜ、ウイルス性胃腸炎、急性胃腸炎、感染性下痢症
この記事の監修医師
豊田 弘邦
日本内科学会認定総合内科専門医
嘔吐や下痢で「お腹のかぜ」と言われる病気です。原因の大半はウイルスで、特効薬はありませんが、水分と電解質を補給できていれば、ほとんどの方が数日で自然に回復します。
まず確認していただきたいこと:
- 治療の中心は水分補給です。下痢を無理に止める必要はありません
- 抗生物質は効きません。ウイルスが原因のためです
- 食事は早めに再開して構いません。「おかゆだけ」で長く我慢する必要はありません
- 次のいずれかがあれば、早めに受診してください — 半日以上水分が取れない/尿が明らかに少ない/ぐったりして元気がない/便に血が混じる/38.5℃以上の高熱が続く/激しい腹痛
とくに2歳未満のお子さまは急速に脱水が進むことがあり、注意が必要です。
すぐに受診したほうがよいのはどんなとき?
以下のいずれかにあてはまる場合は、早めに医療機関を受診してください。
- 半日以上、水分が取れない(飲んでもすべて吐いてしまう場合を含みます)
- 尿の量が明らかに少ない、半日以上出ていない
- ぐったりして元気がない、呼びかけへの反応が鈍い
- 唇や口の中が乾いている、涙が出ない、目がくぼんでいる
- 便に血が混じる(細菌性の可能性があります)
- 38.5℃以上の高熱が続く
- 激しい腹痛がある
判断に迷う場合もご相談ください。水分が全く取れない場合やぐったりしている場合は、診療時間を待たずに医療機関を受診してください。
脱水の程度の見分け方
| 脱水の程度 | おもな所見 |
|---|---|
| 軽度(体重の3〜5%減少) | 口の渇き、尿量がやや減少 |
| 中等度(5〜10%減少) | 口の中が乾く、皮膚の弾力低下、涙が少ない |
| 重度(10%以上減少) | ぐったり、目がくぼむ、手足が冷たい、尿が出ない |
中等度以上が疑われる場合は受診してください。
家ではどうケアすればよい?
最も大切なのは水分と電解質の補給です。ウイルス性の胃腸炎に特効薬はありませんが、適切に水分が取れていればほとんどの方が自然に回復します。
吐いた直後はどうする?
吐いてから5〜10分待ってから、スプーン1杯程度の経口補水液を与えてください。吐かなければ、5分おきに少しずつ量を増やしていきます。一度にたくさん飲ませると再び吐いてしまうため、「少量を頻回に」が原則です。
お子さまの場合は、スプーンやスポイトで5mLずつ、5分おきに与える方法が有効です。吐いても諦めず、少し時間をあけてから再度試してください。
何を飲ませればよい?
経口補水液(ORS) — 市販の経口補水液(OS-1など)は水分・塩分・糖分のバランスがよく、腸からの吸収に優れています。第一選択です。
経口補水液がないとき — 水1リットルに砂糖大さじ4杯(40g)と塩小さじ半分(3g)を溶かすと、簡易的な経口補水液が作れます。
お子さまが経口補水液を嫌がるとき — 2歳以上で、脱水がほとんどない軽症のお子さまに限りますが、2倍に薄めたりんごジュースやお子さまの好む飲み物でも構いません。研究では、薄めたりんごジュース+好みの飲み物のほうが経口補水液のみの場合より治療失敗が少なかったことが報告されており、とくに2歳以上でこの傾向が顕著でした。「飲んでくれること」が何より大切です。
大人の場合 — 脱水がなければ、スポーツドリンクやスープなどでも水分を維持できます。ただし糖分の多い原液のジュースや炭酸飲料は避けてください。カフェイン入りの飲料やアルコールは脱水を悪化させます。
点滴 — 口から水分が取れない場合や、重い脱水がある場合は、医療機関で点滴による補液を行います。
母乳やミルクは続けてよい?
続けてください。下痢の最中でも中止する必要はありません。母乳には腸の回復を助ける成分が含まれています。
食事はいつから、何を食べてよい?
嘔吐が落ち着き、少しずつ水分が取れるようになったら、早めに再開して構いません。
以前は「おかゆだけ」「BRAT食(バナナ・米・りんご・トースト)」が推奨されていましたが、現在では年齢に適した通常の食事を早期に再開するほうが回復が早いとされています。
- おかゆ、うどん、じゃがいもなど消化のよい炭水化物から始めましょう
- バナナ、ヨーグルト、スープ、ゆで野菜なども取りやすい食品です
- 脂肪分の多い食事は回復するまで控えましょう
- 糖分の多い飲料は控えてください
食欲がないときに無理に食べさせる必要はありません。水分が取れていれば十分です。
何日で治る?
感染後12時間〜2日ほどで症状が現れ、嘔吐は通常1〜2日、下痢は5〜7日ほどで改善します。
原因ウイルスによって経過は多少異なります。
- ノロウイルス — 症状の持続は比較的短く、2〜3日程度
- ロタウイルス — 3〜8日続くことがあります
- アデノウイルス — 1〜2週間と比較的長い経過をたどることがあります
1週間以上症状が続く場合はご相談ください。
いつまで人にうつる?
感染力が最も強いのは、症状がある時期から回復後48時間までです。
ノロウイルスの場合、症状が治まった後も平均4週間ほど便中にウイルスが排出されます。ただし、その時期の感染力は大きく低下しています。
症状が治まってから少なくとも2日間は、できるだけ調理などを避け、手洗いを徹底してください。お仕事で調理に従事される方については、ご職場の取り決めや保健所の指導に従ってください。
家族にうつさないためにはどうすればよい?
石けんと流水で30秒以上の手洗いを、家族全員で徹底することが最も有効です。ノロウイルスにはアルコール消毒が十分に効きません。
- 嘔吐物・便の処理 — 使い捨て手袋とマスクを着用し、ペーパータオルで拭き取った後、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム/家庭用ハイターなど)を薄めた液で消毒してください
- タオル・食器の共有を避ける — 症状がある間は分けてください。可能であればトイレも分けましょう
- 汚れた衣類やシーツ — 別に洗い、85℃以上のお湯で1分以上の加熱洗濯、または塩素系漂白剤での消毒が有効です
ノロウイルスは環境中で非常に安定しており、ドアノブや調理台などの表面で長時間生存します。
保育園・学校にはいつから行ける?
感染性胃腸炎自体は法律で定められた出席停止の対象ではありませんが、以下を目安としてください。
- 嘔吐が止まっている
- 下痢の回数が、普段の便の回数から2回以内の増加にとどまっている
- おむつの場合は便がおむつに収まっている
- 全身状態がよく、食事が取れている
判断に迷う場合はご相談ください。
薬は何を使う?下痢止めは飲んでよい?
下痢止め(ロペラミドなど)は、お子さまには使用しないでください。腸の動きを抑えることで、まれに重い副作用(腸閉塞など)を起こす可能性があります。大人の場合は、血便や高熱がなければ医師の判断で短期間使用することがあります。いずれにせよ、下痢を無理に止めるよりも水分補給を優先してください。
その他の薬については以下のとおりです。
- 制吐薬 — お子さまの嘔吐が強く経口補水ができない場合に使用します。嘔吐を抑えて口からの水分補給を助けます
- 解熱鎮痛薬 — 高熱でつらい場合は、アセトアミノフェンを使用できます
- 整腸剤 — 腸内環境を整える目的で処方することがあります
- 抗菌薬(抗生物質) — ウイルス性の胃腸炎には効果がなく、通常は使用しません。細菌性が強く疑われる場合に限り検討します
どんな症状が出る?
感染後12時間〜2日ほどで、以下のような症状が現れます。
- 嘔吐 — とくにノロウイルスでは目立ちます。お子さまでは突然の嘔吐で始まることが多いです
- 水様性の下痢 — 1日に数回〜10回以上の水のような便が出ることがあります。通常、血液は混じりません
- 腹痛・お腹の張り — おへそのまわりを中心に、軽い痛みやけいれんのような痛みを感じることがあります
- 発熱 — 38℃前後の発熱がみられることがあります
- 吐き気・食欲不振 — 食べ物を受けつけなくなることがあります
- 頭痛・筋肉痛・だるさ — かぜに似た全身症状が出ることもあります
原因は何?どうやってうつる?
原因の大半はウイルスです。
おもな原因ウイルス
- ノロウイルス — あらゆる年齢で最も多い原因です。とくに冬〜春に流行します。少量のウイルス(100個未満)でも感染が成立するほど感染力が強く、食品や人の手を介して広がります。アルコール消毒が効きにくいのが特徴です
- ロタウイルス — おもに生後6か月〜2歳のお子さまに多くみられます。ワクチンの普及により患者数は大きく減少しています
- アデノウイルス — 夏場にも流行し、比較的長い経過をたどることがあります
- アストロウイルス・サポウイルス — お子さまの散発的な胃腸炎の原因となります
ウイルス以外の原因
細菌(サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌など)や寄生虫も急性の下痢を引き起こすことがあります。細菌性の場合は高熱や血便を伴うことが多く、ウイルス性と異なる経過をたどることがあります。
感染経路
- 糞口感染 — ウイルスを含む便や嘔吐物に触れた手を介して口に入ることで感染します
- 飛沫・空気感染 — 嘔吐の際に飛び散った微小な粒子を吸い込んで感染することがあります
- 食品・水を介した感染 — 汚染された食品(二枚貝、生野菜など)や水から感染することがあります
かかりやすい条件
- 2歳未満の乳幼児(体の水分の割合が高く、脱水しやすい)
- 65歳以上の高齢者
- 免疫力が低下している方
- 保育園・学校・介護施設などの集団生活環境
- 冬〜春の寒い季節
検査は必要?
多くの場合、検査なしに診断できます。嘔吐と水様性の下痢があり、血便がなく、数日以内の経過であれば、症状と診察所見から診断します。
ウイルスの種類を特定する検査は通常必要ありません。原因ウイルスが異なっても治療方針は同じだからです。ただし、保育園や施設での集団発生時には、公衆衛生上の理由から迅速検査を行うことがあります。
診察で確認すること
- 嘔吐や下痢の回数・性状(血便の有無)
- 水分摂取の状況と尿の量
- 脱水の程度(口の渇き、皮膚の張り、ぐったり度合い)
- 発熱の有無と全身状態
- おなかの診察(押して痛む部分がないか)
追加検査を行う場合
以下のような場合には、血液検査や便の検査を行うことがあります。
- 高熱が続く場合や全身状態が悪い場合
- 便に血液や粘液が混じる場合(細菌性の可能性)
- 脱水が強い場合(電解質の異常を確認するため)
- 1週間以上症状が続く場合
入院が必要になるのはどんなとき?
- 重い脱水で点滴が必要な場合
- 嘔吐が止まらず、口から水分が全く取れない場合
- 血便が多量にみられる場合
- 全身状態が著しく悪い場合
お子さまの場合に気をつけること
お子さま、とくに2歳未満の乳幼児は、体の水分の割合が高く代謝も活発なため、嘔吐や下痢によって急速に脱水が進むことがあります。
- 脱水のサインを見逃さないでください — 涙が出ない、口の中が乾いている、おしっこの回数が明らかに減っている、ぐったりしている場合は早めに受診してください
- 母乳やミルクは続けてください
- 経口補水液は少量ずつ — スプーンやスポイトで5mLずつ、5分おきに
- ロタウイルスワクチン — 生後6週から接種でき、重症のロタウイルス胃腸炎を予防する効果があります。まだ接種がお済みでない方はご相談ください
当クリニックでの対応
高浜台内科小児科クリニックでは、感染性胃腸炎の診断・治療に対応しています。
- 診察と脱水の評価を行い、重症度に応じた適切な治療をご提案します
- 軽度〜中等度の脱水に対しては経口補水療法の指導を行います
- 嘔吐が強いお子さまには制吐薬の処方を検討します
- 口から水分が取れない場合は、院内で点滴による補液を行うことができます
- 重い脱水や合併症が疑われる場合は、速やかに連携する病院へご紹介いたします
嘔吐や下痢が始まったら、まず経口補水液で水分を補給しながら、当クリニックの診療時間内にご来院ください。水分が全く取れない場合やぐったりしている場合は、早急に医療機関を受診してください。
この記事について
この記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。 症状がある場合は、医療機関を受診してください。

