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話題の「アイススラリー」、本当に熱中症に効くの?

豊田 弘邦

この記事の監修医師

豊田 弘邦

日本内科学会認定総合内科専門医

📖 読了時間: 約9

この夏、テレビやSNSで急に見かけるようになった「アイススラリー」。氷のつぶが入ったシャーベットみたいな飲み物で、コンビニでも売られるようになりました。「これさえ飲めば熱中症対策は万全」というような紹介のされ方をしているのも見かけますが、実際どこまで効果が確認されているのか、元になっている研究を調べてみました。

アイススラリーってどんなもの

細かい氷のつぶと液体が混ざった、シャーベット状の飲み物です。温度はマイナス1℃くらい。冷蔵庫で冷やした飲み物(4℃くらい)よりずっと冷たく、氷をそのままかじるよりも飲みやすいのが特徴です。

運動前に飲むと、体温の上がり方がゆるやかになる

いくつかの研究で、運動や作業を始める前にアイススラリーを飲んでおくと、体の内部の温度(深部体温)が上がりにくくなることがわかっています。氷が体の中で溶けるときに周りの熱を吸い取る、という単純な仕組みで、理屈としては素直に納得できます。

2025年に発表された筑波大学の研究では、健康な若い男性12人に、アイススラリー、または体温と同じくらいに温めた飲み物のどちらかを飲んでもらい、暑い部屋で自転車をこいでもらうという実験が行われました。この研究のポイントは、単に体温が下がったという話ではありません。体温が上がりすぎると呼吸が必要以上に激しくなり、それによって脳への血流が減ってしまうことがあるのですが、アイススラリーを飲んだ場合は、体温の上がり方がゆるやかなだけでなく、呼吸の激しさが抑えられ、脳への血流もより保たれていた、という結果でした。[4]

そのあと限界まで自転車をこいでもらったところ、単純に平均を比べただけでは、運動を続けられた時間にはっきりした差は出ませんでした。ただ、多くの人はアイススラリーを飲んだ方が長く運動できており、お腹の調子を大きく崩した一人だけを除くと、はっきりした差になりました。つまり、多くの人には効果が期待できそうだけれど、お腹の不調が強く出た人ではその効果が打ち消されてしまう可能性が否定できない、というのが実際のところのようです。

国立スポーツ科学センターの資料では、体重60kgの方なら450gくらい(500mlペットボトル1本弱)を少しずつ飲むと、しっかり体温を下げる効果があるとされています。[1]ただこれは「450gくらいをまとまって飲んだ場合」の話で、市販品のアイススラリーを少しずつ飲む、といった軽い摂取量で同じ効果があるかどうかは、実はきちんと調べられていません。少し飲んだだけでもある程度効くはず、というのは今のところ確認された話ではなく、期待や推測の域を出ていません。

同じ資料には、飲むタイミングによる違いも書かれていました。ある研究では、ウォーミングアップの前に飲むよりも、後(運動を始める直前)に飲んだ方が体温がより下がり、疲労困憊までの運動時間も長かったことが報告されています。[2] 競技中に給水や休憩がある場合は、休憩のたびに少量を追加すると、運動後半の体温上昇を抑える効果も報告されています。[3] これもやはり、運動前後にきちんと量を確保できた場合の話です。

市販品の糖分は、思っている以上に多い

市販のアイススラリーはスポーツドリンクをベースに作られているものが多く、だいたい100gあたり糖分20〜26gくらい入っています。研究で効果があるとされた450gを飲むと、糖分だけで100g前後、カロリーにして450kcalくらいになる計算です。角砂糖にすると30個分くらい、清涼飲料水なら1.5〜2リットル飲むのと同じくらいの糖分です。世界保健機関(WHO)がすすめる1日あたりの糖分の目安(25〜50g程度)を、これ一回で軽く超えてしまいます。

体を冷やそうと真面目に飲めば飲むほど、実は糖分もかなり摂っていることになります。

エビデンスとしてはまだ発展途上

体温が下がること自体はいくつかの実験で確認されていますが、注意しておきたい点もいくつかあります。

試された人数がそもそも少ないというのが一つ。研究の多くは健康な男性10〜12人程度の小さな実験です。筑波大学の研究でも、10人での比較では持久力の差ははっきりせず、あとから1人を除いた9人でようやく差が出ました。研究対象の人数が少ないと、こういうことが起こりやすくなります。対象も偏っています。高齢の方、お子さん、持病のある方、実際の炎天下での作業といった場面でのデータはほとんどなく、今わかっているのは「健康な若い男性が実験室で運動した場合」の話です。少量でも効くかどうかも、実はよくわかっていません。

実験室での条件と、実際に私たちが使う場面との間にもギャップがあります。研究では、決められた量を何回かに分けて正確に飲む、といった厳密な手順で行われています。実際の生活や部活動の現場で、そこまで正確に守って飲むことは、なかなか難しいのではないでしょうか。また、比較対象として使われた「体温と同じくらいまで温めた飲み物」も、温度の影響だけを調べるための実験上の工夫であって、暑い中でわざわざそんな飲み物を選んで飲む人は、現実にはまずいないはずです。研究で確認された効果は、あくまでこの厳密な条件のもとでの話だという点は頭に置いておいた方が良さそうです。

「熱中症そのものが減る」というところまでは、まだ証明されていません。体温が下がることは確認されていますが、アイススラリーを飲んだ人は実際に熱中症になる人が減った、ということを大人数で確かめた研究は今のところありません。体温が下がれば熱中症も減るはずだ、という理屈としては妥当な予想の段階にとどまっています。

報道されている勢いに比べると、研究のボリュームはそれほど多くないというのが実際のところだと思います。2025年に職場の熱中症対策が法律で義務化されたこともあり、企業側にも「対策をやっています」とアピールしやすい商品として広まっている事情があるのかもしれません。

もっと大人数を対象にした、質の高い研究が出てくるのを待ちたいところです。今年の夏はこれだけ話題になっている分、研究者の側でも実証データを積み増す動きがあるかもしれず、この夏のうちに何か新しい知見が出てくる可能性もあります。

「涼しく感じる」ことと「実際に体温が下がっている」ことは別

2010年に発表されたSiegelらの研究では、アイススラリーを飲んだグループは冷水を飲んだグループより「涼しい」と感じていたにもかかわらず、運動を続けられなくなった時点での体温(直腸温)は、むしろアイススラリー群の方が高かったという結果が出ています。[5] 体が涼しさを感じることと、実際に体の中に熱がたまっているかどうかは、必ずしも一致しないということです。

理由の一つとして考えられているのが、事前に体を冷やしておくと、運動が始まってからの発汗などの「体を冷やす仕組み」の立ち上がりがかえって遅れてしまうことです。また、冷たい飲み物を飲むと汗の量そのものが減ることも関係しているようです。汗が蒸発するときの気化熱は体を冷やすうえで大きな役割を担っているため、それが減ってしまうと、特に乾燥していて風のある環境では、アイススラリーで内側から得られるはずの冷却効果が相殺されてしまうことがある、と指摘されています。[6]

つまり、「冷たいものを飲んで涼しく感じるから大丈夫」と思い込んでしまうのは、かえって危険な場合があるということです。アイススラリーを飲んだからといって、暑さそのものへの警戒を緩めていい理由にはなりません。

予防と治療は別の話です。ここまで紹介してきたのは、あくまで発症する前の予防的な使い方についての話です。すでに熱中症を起こしてしまった人、特に意識がはっきりしない人に対する現場での治療は、アイススラリーを飲ませることではなく、冷たい水に体をつけて冷やす「冷水浸漬」が国際的にも標準とされています。飲み物で内側から冷やすという発想と、実際に具合が悪くなった人を助ける方法とは、別のものだと考えてください。

使うときに気をつけたいこと

すでに具合が悪い人には飲ませないでください。意識がぼんやりしている、呼びかけへの反応が鈍いといった熱中症の症状が出ている場合、無理に飲ませると誤って気管に入ってしまう危険があります。先ほど書いた通り、そういうときはアイススラリーではなく、体を冷やしながら救急車を呼ぶことが優先されます。

一気飲みも避けた方がいいです。しっかり効果を得るには多めの量が必要で、それに伴ってお腹の張りや痛みが出ることがあります。少しずつ、こまめに飲むのが基本です。

先ほど書いた通り、市販品には糖分がかなり入っています。糖尿病があって血糖のコントロール中の方には、基本的におすすめできません。どうしても内側から体を冷やしたい場合は、水や麦茶を凍らせたものなど糖分のないもので代用し、主治医にも相談してください。糖尿病がない方でも、毎日何度も飲むような使い方は糖分・カロリーの摂りすぎにつながるので、炎天下での運動や作業の前だけ、というように場面を絞るのがおすすめです。

そして何より、これだけで安心と思わないでください。あくまで体温の上がり方をゆるやかにする一つの手段であって、水分・塩分補給や休憩、涼しい場所の確保といった、これまで通りの対策に置き換わるものではありません。

アイススラリーは効果がまったくないわけではなく、正しく使えば理にかなった暑さ対策の一つです。ただ、すでにエビデンスのある方法を市販品で行おうとすると糖分がかなり多くなること、熱中症そのものを減らせるという証明はまだこれからだということは、覚えておいていただければと思います。

参考文献

  1. ^ハイパフォーマンススポーツセンター 国立スポーツ科学センター(JISS) (2020). "第1章「運動前・運動中の身体冷却法」". 競技者のための暑熱対策ガイドブック【実践編】. リンク
  2. ^Takeshima K, Onitsuka S, Xinyan Z, Hasegawa H (2017). "Effect of the timing of ice slurry ingestion for precooling on endurance exercise capacity in a warm environment.". J Therm Biol., 65, 26-31. DOI
  3. ^Naito T, Sagayama H, Akazawa N, Haramura M, Tasaki M, Takahashi H (2018). "Ice slurry ingestion during break times attenuates the increase of core temperature in a simulation of physical demand of match-play tennis in the heat. ". Temperature (Austin)., 5(4), 371-379. DOI
  4. ^KATAGIRI, AKIRA; KAWAI, SYUNTARO; NISHIYASU, TAKESHI; FUJII, NAOTO (2025). "Ice Slurry Mitigates Hyperventilation and Cerebral Hypoperfusion, and May Enhance Endurance Performance in the Heat". Medicine & Science in Sports & Exercise, 57(7), 1488-1500. DOI
  5. ^Siegel R, Maté J, Brearley MB, Watson G, Nosaka K, Laursen PB (2010). "Ice slurry ingestion increases core temperature capacity and running time in the heat.". Med Sci Sports Exerc., 42(4), 717-725. DOI
  6. ^ Jay O, Morris NB (2018). "Does Cold Water or Ice Slurry Ingestion During Exercise Elicit a Net Body Cooling Effect in the Heat?". Sports Med. , 48(Suppl 1), 17-29. DOI

📋 この記事について

この記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。 症状がある場合は、医療機関を受診してください。

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